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仙台高等裁判所秋田支部 昭和34年(ナ)4号 判決 1961年1月23日

原告 金子政之助 外一名

原告補助参加人 三浦政信

被告 秋田県選挙管理委員会

被告補助参加人 児玉英三

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用中原告等と被告及び被告補助参加人との間に生じた分は原告等の負担とし、原告補助参加人と被告及び被告補助参加人との間に生じた分は原告補助参加人の負担とする。

事実

原告等の主張並びに答弁

(請求の趣旨)

原告等訴訟代理人は「被告が昭和三四年四月三〇日執行の秋田県山本郡八竜村村長選挙の当選の効力に関する訴願に対し、同年一一月三〇日なした裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求原因)

一、原告両名は昭和三四年四月三〇日施行された秋田県山本郡八竜村々長選挙(以下本件選挙という)の選挙人である。

二、本件選挙は同日開票の結果選挙会では投票総数五、三三九票、その内有効投票五、三一〇票、無効投票二九票、候補者児玉英三(以下児玉候補という)の得票二、六五八票、候補者三浦政信(以下三浦候補という)の得票二、六五二票となり児玉候補が同日当選者として告示された。

三、原告両名は本件選挙における児玉候補の当選の効力に不服があり同村選挙管理委員会(以下村選管という)に対し異議の申立をしたところ同委員会は同年六月二八日附の決定書を以て前記選挙会における当選人児玉英三の当選を無効としその旨の決定書が同日原告等に交付された。(右決定書によれば児玉候補の得票は二、六四四票、三浦候補の得票は二、六四五票)

四、児玉英三は右決定に不服で同年七月七日被告秋田県選挙管理委員会に対し訴願を提起したところ同委員会は同年一一月三〇日附の書面で本件選挙の当選につき村選管のなした決定を取消す旨の裁決をなし、該裁決は同日告示された。(右裁決によれば投票総数五、三三九票、有効投票総数五、二九七票、無効投票四二票、三浦候補の得票二、六四六票、児玉候補の得票二、六五一票)

五、原告両名は右委員会の裁決に不服があり本訴においてその取消を求めんとするものであるがその理由は左のとおりである。

六、即ち本件選挙における各投票の記載を調査してその有効無効を判断すると次のようになり(各投票の下の番号は検証調書添付投票番号を示す。)結局三浦候補の得票は児玉候補のそれより多いことが明白であるからである。

第一、原裁決が児玉候補の有効投票としたもののうち、原告において無効を主張するものについて。

(イ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示したもの、

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.1)

この投票には最上部に円に近い形を描き、その下に「コ」の字を、次に「リ」の字に濁点を付したものを、最下部に「ヱ」に類似する文字を書いてある。而してこの下方の二字は特に字型整わず、いかなる文字を書いたものか判読困難である。この下部三字は到底「コダマ」と判読することは不可能であるが、仮にかく判読するとしても最上部の記載はその形が円に近く、しかも運筆の方向は斜左上方から斜右下方に至り斜左上方に帰つている点からみて「コ」の字を書かんとしたものとみるのは無理であり、児玉候補に投票したことを明示せんとする意識的記載とみるの外なく、明らかに他事記載としてこの投票を無効ならしめるものというべきである。原裁決がこれを児玉候補の有効投票となすのは誤つている。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.2)

この投票の記載は第一字は「コ」と書いたものであることは認め得るが、第二字は「<手書き文字省略>」に濁点を付したものであり、第三字は横線の下に点を付し「<手書き文字省略>」と書いたもので文字をなさず、これを「コダマ」と判読することは困難であるから、児玉候補の有効投票となすことのできないのは勿論、候補者の何人を記載したか確認し難いので無効投票とする外ない。

原裁決がこれを児玉候補の有効投票となしたのは失当である。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.3)

この投票の記載は、第一字は「コ」と書いたものであるように推測されるが、第二字、第三字は文字と称し得ざるいたずら書きの如きものであり、全く判読し得ない。第一字が児玉候補の氏の第一字に相当するとしても、この記載全体を「コダマ」と判読することは不可能である。児玉候補の有効投票となすことを得ないのは勿論、候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効投票となすべきである。原裁決がこれを児玉候補の有効投票となしたのは誤である。

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.4)

この投票の記載は全く判読不能である。或は用紙の上下を逆に置いて書いたものとしても、第一字は「コ」と、第二字は「ユ」と、第三字は「ヌ」と書いたものとみるべきであるから、第一字が児玉候補の氏の第一字に相当するとしても、第二字第三字はどうみても「ダマ」または「タマ」と判読することは不可能であるので、児玉候補の有効投票となすことのできないのは勿論であり、この投票は候補者の何人を記載したかを確認し難いものとして無効投票となすの外ない。原裁決がこれを児玉候補の有効投票となしたのは失当である。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.5)

この投票の記載は第一字は辛じて「コ」と判読し得るが、それ以下の記載(第二字、第三字に相当する)は全く文字の体をなしていない。これを「コダマ」または「コタマ」と判読し得ないことは勿論であるから、児玉候補の有効投票となすのは失当であり、候補者の何人を記載したか確認し難い投票として無効である。

また第一字の字型が不自然であり、それ以下の記載も逆字になつているから紙型を使用したのではないかとの疑も濃厚に持たれるのであり、いずれにせよ無効投票たるべきものである。原裁決がこれを児玉候補の有効投票となしたのは全く理由のないことである。

(6) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.6)

この投票の記載は、「<手書き文字省略>」と書いてあるので、これを児玉候補の氏を記載したものとなすことはできない。この文字を見るといずれも相当の筆勢であるから必ずしも文字を書くことに習熟しない者の記載したものとは思われないので、そのような投票者が児玉候補の氏を誤つて記憶し、或は誤記するとも考えられない。すなわち、児玉候補に投票する意思をもつていたが、その氏を誤記したものとはなし難いから、同候補の有効投票となすことを得ないのは勿論であり、候補者の何人を記載したかを確認し難いものとして無効投票たるべきものである。

なお、第二字第三字の中間に存する点「、」はその所在の場所が末尾ではないから、いかにも不自然であり、何等かの意図の潜在する意識的記載となすの外ないから、この点からも他事記載のある投票として無効となすのが当然である。原裁決がこれを児玉候補の有効投票となしたのは誤である。

(7) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.7)

この投票の左側の記載は、「<手書き文字省略>」と書いたものであることはみとめ得るが、右側上方に存するものは、判読不能である。原裁決の如く児玉の「児」を書かんとして中途で止めたものと解するのは無理である。もし、中途で止めたものならば、右記載の下端に位する横線の存在が不可解である。この横線は「児」にはないものであるからである。思うに、この部分は特別の意図をもつてする意識的記載であり、この投票はいわゆる他事記載の存する投票として無効たるべきである。原裁決がこれを児玉候補の有効投票となすのは失当である。

(ロ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示さなかつたもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.30)

この投票には第一字は「コ」、第二字は「<手書き文字省略>」、第三字は「マ」と記載されている。第二字は明らかに「<手書き文字省略>」に濁点を附したものであり、斯の如き文字は存在しないし、また第一字第三字が正確な字体で書かれている点からみて「ダ」を「<手書き文字省略>」と誤記したものとなすことはできないから全体として候補者の何人を記載したか確認し難い無効投票とみるの外ない。

またこの投票の記載全体に不自然なところがあつて、殊に「<手書き文字省略>」「<手書き文字省略>」の字型には自由な運筆によつて書かれたものとはみとめられない点があり、型紙使用の疑を抱かしめるものである。(特に「<手書き文字省略>」の第一乃至第三劃を注意されたい)、すなわち、この投票は候補者の氏名を自書しないものといわねばならない。

この点からも無効投票たるべきものである。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.31)

この投票の記載をみるに、第一字は不鮮明な横線が認められるだけであり、第二字も字型が明確でないし、第三字は漸く「マ」と書いたものとみられるが、第一字第二字が判読できないため、これを「コダマ」と読むことは到底不可能である。候補者の何人を記載したか、確認し難いものとして無効投票とすべきである。

なお、この記載全体を「コダマ」と判読するとしても、そのときは型紙を使用したのではなかろうかと疑われる点があるそれは各文字の形は整つているのに鮮明を欠く部分が諸所にあるからである。これは候補者の氏名を自書しない投票というべく無効である。いずれにしても無効投票たるべきものである。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.32)

この投票の記載は明らかに「コダマ」と読むことができる。児玉候補の氏名を記載したものとみるべきである。

しかしながら、その字体に注目するとき、第一字の「コ」は定規を使用して書いたように字型が確然として横線二本、縦線一本は直線であり、横線と縦線とは直角に交つている。型線を用いずして何人も斯の如き文字を書くことはできない筈である。第二字、第三字についても同様のことがいえる。思うにこの投票は、候補者の氏名を自書しないものとして無効たるべきものである。(大審院大正九年(オ)第七八二号、大正九年二月一一日判決及び仙台高裁秋田支部昭和二六年(ナ)第二号昭和二七年六月一九日判決参照)

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.33)

この投票の記載は、第一字、第三字は「コ」「マ」と読み得ることは認めるが、第二字は明らかに「ヲ」であり、全体として「コダマ」と判読することはできないから児玉候補の氏名を記載したものではない。児玉候補の有効投票となし得ないのは勿論、候補者の何人を記載したかを確認し難いものとして無効投票とすべきである。

仮に「コダマ」の誤記とみるとしても、この記載は型紙を使用して書かれた疑がある。そのわけは各文字の形をみると余りにも不自然であり、整いすぎているので「ダ」と正確に書くことができず「ヲ」と書くような人がこのように形の整つた文字を書くことができるとは考えられないからである。この点からも、候補者の氏名を自書しない投票として無効たるべきものである。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.34)

この投票の記載は明らかに「コタマ」と読むことができることは認める。これは一応児玉候補の氏名を記載したものとなすべきである。

しかしながら、この記載を精査すると型紙使用のものであることが明白である。第一字の横線二本、縦線一本がいかにも正確に直線をもつて描かれ、然も縦、横の線が直角に交つており、また縦線、下の横線に二回三回と同一個所を描いた跡が明認できる。(これは型紙を使用すると書いた文字がすぐ判らないので、何回か線を描くことになるからである)。また「タ」の字の全体の形に何か不自然なところがあり、その二劃目(右上から左下に長く伸びた線)の中央部が切れている点などを参酌すれば、この記載は型紙を使用して記載されたものであり、候補者の氏名を自書しないものとして無効投票たるべきである。

(6) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.35)

この投票を見るに、明らかに「コタマ」と記載されている。一応候補者の氏名を記載したものと認められる。

しかしながら、この劃然たる字体をみると、いかにも不自然であり、「コ」の第二劃(下の横線)、「タ」の第一劃「マ」の第二劃をみれば同一個所を数回描いた跡が歴然としている。それは型紙にさえぎられ書いた字が判らないので同一の線を数回描くことになるからである。この記載は型紙を使用したことが明白であるから、候補者の氏名を自書しないものとして無効投票となすべきである。

(7) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.36)

この投票の記載は第一字は明らかに「ユ」であり、第二字は「ダ」、第三字は「マ」と判読できないこともないが、これを「コダマ」と読むことは無理である。児玉候補の有効投票となし得ないのは勿論、候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効投票となすべきである。

これを「コダマ」と判読するとしても、この三文字の字体をみると、諸所において線が切れていたり、或は不自然に動揺している。殊に「コ」の字の縦線が動揺しているのは投票者が自由に書いたものとしては全く不可解である。これは型紙を使用して候補者の氏名を記載せんとしたとき、型紙の切込線に障害になる部分があつたためと推測されるし、また「ダ」の第一劃を数回描いた跡も歴然としているから、型紙使用は明白である。すなわち候補者の氏名を自書しない投票として無効となすべきである。

(8) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.37)

この投票には第一字、第二字として「コタ」と記載してありその下には斜に「<手書き文字省略>」と記載してある。これは「コタマ」と記載せんとして第三者がかすれたものとみるのは誤つている。第三字は全く文字をなしていないので、「コダマ」と判読することは不可能であり、児玉候補の有効投票となすのは誤つている。

さらに二つの点を斜に並べて記入しているところからみて、これは意識的に記載された他事記載とみるべきである。第一字第二字は児玉候補を表示せんとしたものとしても、右の他事記載があるため無効投票となすの外ない。

なお、この投票の字型をみると線がすべて劃然としており、自由に書いたものではなく予め用意した型紙を使用してなされたものであることを知ることができる。また第三字が二点になつているのも、型紙の切込線が狭すぎたか、或は投票者があわてていたため十分に「マ」の字が顕出されたか、否かを確めなかつたのによるものと推測される。この点からこの投票は候補者の氏名を自書しない無効のものである。

(9) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.38)

この投票の記載は「コダマ」と読み得ることは認めるが、この投票をもつて児玉候補の有効投票となすことはできない。その理由は、「コ」の右肩、「マ」の右肩が普通なら途切れる筈のないところであるのに、いずれも少し途切れている点からみると、この記載は型紙を使用してなされた疑があり、この点から候補者の氏名を自書しないものとみるべく無効投票となさねばならないからである。

(10) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.39)

この投票の記載をみるに、各文字とも線が書き過ぎてあり、正確なものではなく、第三字の如きは「マ」ではなく「ヌ」であり、「コダマ」と判読することは困難である。

なお、この字型、殊に第一字の型をみるといかにも不自然である。型紙を使用して記載した疑があるので、候補者の氏名を自書しない投票として無効たるべきである。

(11) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.40)

この投票の記載をみると、漢字をもつて「児玉円蔵」と書かれている。漢字でこの程度の筆勢をもつて記載し得る者は相当の教育があり、文字を書くにも習熟している人とみられるので、児玉英三候補の名を斯の如く誤記することは推測できない。これは候補者の氏名を記載しない投票として無効たるべきものである。児玉候補の有効投票となすことはできない。

(12) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.41)

(13) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.42)

右各投票の記載は、字型に多少の相違はあるが、ともに「小児」と書かれているものである。この記載が何を意味するものか明確ではないが、これをもつて児玉候補の氏名を記載せんとして第一字「児」を「小」と誤記したので、あわてて正しい「児」を書いたものとなすのも無理である。もし「小」と誤記したものならば、これを抹消して「児」と書く筈である。ことに右二票の記載は漢字で、相当の筆勢をもつて書かれているから、相当教育のある文字に習熟した人の書いたものとみるべきであり、斯の如き投票者が誤記した「小」の抹消を忘れる筈はないからである。この投票二票も児玉候補の有効投票となすことはできない。

(14) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.43)

この投票には「コダマ」と記載されていること明白であり、これは児玉候補の氏名を書いたものと認められる。

しかしながら、右三字の上に左右に多少延びた点一が存する。この記載は文字を書こうとし、やめて残つたものではなく、意識的に記載したものであることは、その記載自体に一旦記載したものを抹消せんとしたと認められる形跡がないことやそのある場所からみて、また数回重ねて描いていることから考えても、何等かの意図をもつて意識的に書かれたものとみるべきである。この点から他事記載ある無効投票となすべきである。児玉候補の有効投票となすことはできない。

(15) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.44)

この投票には明らかに「児玉」と読み得る記載があり、これは児玉候補の氏に相当するが、これを同候補の有効投票となすことはできない。

右「児玉」の下には五個の点が上下に並べて書いてあり、これは文字、濁点、句読点とも認められないから、明らかに何等か特別の意図をもつて意識的に記載したものと解するの外ないので、いわゆる他事記載に当るといわねばならない。この投票は無効となすべきである。

(16) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.45)

この投票の記載をみるに、第一字は「コ」と判読することは不可能であり、むしろ不正確ながら「ヨ」に近く、第二字を「タ」と読むことには無理があるし、第三字にいたつては全く字体をなさず、要するにこの記載は判読不能という外ない。すなわち、この投票は候補者の何人を記載したか確認し得ないものとして無効たるべきである。これを児玉候補の有効投票となすのは誤である。

(17) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.46)

この投票の記載は第一字は「コ」と認められるが、第二字は全く字体をなさず、これを「ダ」と判読することは不可能であり、また第三字も字型が極めて不正確であり強いて読むとすれば「エ」と判読するより外ない。この投票は判読不能であり、候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効とすべきである。児玉候補の有効投票となすことのできないのは勿論である。

(18) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.47)

この投票には右上隅近くに「コ」、左下隅近くに「マ」といずれも殊更に小さく書いてあり、右「マ」の反対側の右下隅近くに小さく「<手書き文字省略>」と書いたような記載がある。

この殊に小さい字で「コマ」と書き、而も右上隅と左下隅とに離して書いている記載状況からみて、果して真面目な意図でこの記載がなされたかの点に疑問があり、またこれを児玉候補の氏名「コダマ」を記載せんとして「ダ」を忘失したものとなすのも無理である。それは「コマ」は極めて正確な字型で書かれているので、そのような記載をなす投票者が「ダ」を忘れるものとは考えられないからである。

なお、児玉候補の氏名「コダマ」を記載せんとして「ダ」を書き落したものと仮定しても、右下隅に存する「<手書き文字省略>」は何等かの意図で意識的に書かれた他事記載とみるべきである。この投票は児玉候補の氏名を記載したものとみなすことができないので、同候補の有効投票となすことはできず、また他方他事記載により無効投票とみるべきである。

第二、原裁決が三浦候補の無効投票となしたもののうち原告において有効を主張するもの。

(イ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示したもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.8)

この投票の記載は、一見して仮名の「ミ」のように見えないこともないが、仔細に検討すると各字劃が右下りながら一定の長さをもつているので、不完全ながら「三」を書いたものとみるべく、本件選挙の候補者中には「三」またはこれに類する氏名を有する者は三浦候補の外にないので、同候補の氏の第一字「三」を書いたものであるといわねばならない。

右投票の記載から三浦候補に投票する意思を明確に知り得るので同候補の氏を記載した有効投票となすべきである。原裁決がこれを無効投票となしたのは失当である。

(ロ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示さなかつたもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.9)

この投票の記載は明らかに片仮名と漢字を混じえて、郵便局と書いたものである。本件選挙の候補者中児玉候補は全く郵便局に関係なく、他方三浦候補は最近まで約三十一年間郵便局長の職にあつたので村民間においては、いつか三浦候補個人をも「局」とか「郵便局」とか称する慣習ができておつたから、この投票は三浦候補の氏名に準ずべき通称を記載したものとして有効投票とみるべきである。

原裁決は、この投票にはふれていないが、これは村選管が無効となしたのをそのまま是認したものと解される。しかし、その取扱の誤つていることは前叙の理由により明白である。なお、この点については仙台高等裁判所秋田支部昭和二八年七月一三日判決に、「選挙区域たる村のうちの「十二ケ沢」という字名のみを記載した投票であつても、同村においては集会の席などで同一部落の人が一人いるとき、またはある部落のものが一人だけであつてその人を指称する場合にその人の居住する部落名をもつてする習慣のあることが認められ、他方十二ケ沢部落から立候補したものは、佐藤清一郎唯一人であることに徴すれば、これを右佐藤候補にあてられた投票と確定するのが相当であり、また右の記載は同候補者の氏名に代わる俗称と解することができるから、右投票は同候補者の有効得票に算入すべきである。」となしている。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.10)

この投票は無効投票中に存するものであり、その記載は、第一字は明らかに「三」であり、第二字は「宇」を崩して書いたもの、その下方には「らさん」の三字を書いたものと判読できる。勿論字型の必ずしも分明でない部分もあるが、この記載自体から達筆で筆勢するどく「三宇らさん」と記載したものと推認するに難くないので三浦候補の氏名に敬称を附加したものとして同候補の有効投票となすべきである。

原裁決はこの投票にはふれていないが、これは村選管が無効としたのをそのまま認容したものと認められる。その取扱は失当である。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.48)

この投票は漢字をもつて「三浦勇郎」と記載してある。右記載のうち「三浦」は三浦候補の氏に一致するのみならず、本件村長選挙の執行された八竜村には、三浦勇郎の氏名を有する人は実在しないのであり、また他方三浦候補は兄弟十人のうちの一人(長男)でその弟に勇(三男)があつたから、(昭和二十二年死亡した)弟勇の名を勇郎と誤つて記憶していた投票者が、これと同候補の名とを混同し、同候補に投票する意思をもつて「三浦勇郎」と記載したものと推測し得るので、この投票は同候補の氏名を記載した有効なものとなすべきである。

第三、なお、原告等は右六の項で陳述した外に左記の票につき被告がなした判定を争う。(以下本項の主張を原告の追加主張と略記する。)

(イ) 無効票中三浦候補の有効票たるべきもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(昭和三十五年九月五日付検証調書添付の投票番号No.50)(以下No.のみ略記する)

この投票は被告において無効票となしたものである。

しかしながら、この投票の記載全体が幼稚拙劣であるところから判断して教育程度が低く文字を書くことに習熟していない者が、まず三浦候補の第一字「三」を書こうとして横線が斜に左下りになり、つぎに「ウ」の字を書くとき、字体を明確に記憶していなかつたため第一劃がはつきりせず第三劃も第二劃の横線の下まで抜けてしまつたものとみることができるし、また最後に「ラ」を記載するとき第二劃の縦の部分を下に伸すべきところを第一劃に相当する部分に引き続き縦の線を書いてしまいさらに誤つて最下部に「<手書き文字省略>」を付し、「ヨ」の字に似た形にしたものと推測することができる。この記載は「三ウラ」と書いたものと認められるので三浦候補の有効投票となすべきである。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.51)

この投票の記載は第一字は「三」であること明白であり、第二字はいかなる文字を書こうとしたものか明確ではないが、本件選挙の候補者中にはこの第二字に類似する氏名を有するのは三浦候補一人であり、また「浦」の文字は教育程度の低い人にとつては記憶し難い書きにくい文字であることなどを考え合せると、この投票記載全体からわかるように教育程度の低い人が三浦候補の氏「三浦」を書こうとして「三」は正解に書いたが、「浦」は正確には書けず辛じて「<手書き文字省略>」とだけ書いたものと推認することができるので、同候補に投票せんとする意思は明らかに表示されているものというべきである。被告がこれを無効投票として取扱つたのは失当であり、三浦候補の有効投票となすべきである。

なお、末尾に存する「<手書き文字省略>」は句読点に類するもので、書き終つたことを示すものにすぎず、いわゆる他事記載となすべきではない。

(ロ) 児玉候補の有効投票中無効たるべきもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.52)

この投票の記載中に左側に存する「<手書き文字省略>」なる記載は他事記載に当る。

この投票は児玉候補の有効投票中に存するものであるが、他事記載あるものとして無効たるべきである。

被告、同補助参加人の主張に対する答弁

一、三浦候補の有効投票中被告補助参加人が無効票と主張するものについて

(イ)  原裁決において特に三浦候補の有効投票と認定したのに対し被告補助参加人が無効と主張するもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.20)

この投票には第一字は「ウ」、第二字は「ミ」、第四字は「ラ」と記載してあり、第三字はその字型が正確ではないが「ウ」と書く意図であつたことは認め得るので「ウミウラ」と読むべきである。

三浦候補の氏は「ミウラ」であるから、同候補の氏を書いたものとすると、第一字の「ウ」が過剰であり、他事記載の如くにもみえるが、この記載全体が幼稚な仮名で、しかも第三字の如きは「ウ」を「<手書き文字省略>」と書いているところからみて、この投票者は教育の程度が低く文字に習熟しない者であることがわかるから、斯の如き者が、同候補の氏を書かんとして、誤つてその第二字目に当る「ウ」をまず書き、これを抹消することを忘れその下に「ミウラ」と書いたものと推認するに難くない。そうすると同候補に投票せんとする意思が明確に表示されているものというべく、他方「ウ」の一字が特別の意図の下に記入されたとみるべき事情はないから、有意の他事記載となすべきではない。すなわち、同候補の有効投票と認めるのが当然である。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.21)

この投票には「サウラ」と記入されている。この記載自体が仮名で、しかも稚拙な運筆をもつて書かれているところからみて、投票者は文字に習熟しない教育程度の低い人であると推測されるので、三浦候補の氏を「サンウラ」と読みこれを投票用紙に書くとき「ン」を忘れ、或は東北一般にあるように「ン」を省略し、(例えば秋田市商工会議所会頭三浦伝六を氏名のうち各第一字のみをとつて「三伝」とし、これを「サデン」と呼ぶ例となつていることを想起されたし)「サウラ」と記載したものであることを推測することができるので同候補に投票する意思は確認できる。右投票は不完全ながら同候補の氏を書いたものとして有効となすべきである。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.22)

この投票には漢字で「浦」と記載してある。本件選挙の候補者の氏名で「浦」の字を含むのは、三浦候補だけであり、他方人の氏が二字からなる場合に第二字のみをもつてその人を呼ぶことは少くない。例えば「大山」なる人を呼ぶのに「山」さんと称するようなものである。これはその氏の音が、第一字を採るのが呼び易いか、第二字を採るのが呼び易いかによつて決定されることである。三浦なる氏については、もし一字で呼ぶとすれば「三」さんとなすより「浦」さんとするのが呼び易いことは明白であるから、右投票は三浦候補の氏のうち第二字「浦」をもつて同候補を呼称し表示したものとみるべきである。同候補に投票せんとする意思が明確に表明されているので、その有効投票となすのが相当である。

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.23)

この投票の記載をみるに、第一字は明らかに「三」であり、第二字は「清」のようにもみえるが、本件選挙の候補者中これに類似する氏名を有するのは三浦候補のみであるから「三浦」と書く意思でありながら「浦」を「清」と誤記したものと解するのが相当である。殊に右記載全体がたどたどしい筆勢をもつて書かれているところからみて、教育程度の余り高くない漢字になれない者が「三浦」と書かんとして「三清」と誤記したものと推認することができる。右投票は三浦候補の有効投票となすべきである。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.24)

この投票の記載は多少不正確な部分はあるが、「みうら」と書いたものと認められる。この記載全体が稚拙な文字であるところから判断して、教育程度の低い文字を書きなれない者が、「み」を書かんとして第一劃と第二劃を続けてしまい、第二劃の方向を誤つて左下の方に伸し「う」は大体間違いなく書いたが字型が十分整わず、第三字「ら」が書けなくて「、」をもつて表したものとみるべきである。このことは本件選挙の候補者のうちには三浦候補があり、他にこれに類する氏名の者はないことから考えて当然である。三浦候補の有効投票となすべきである。

(ロ)  原裁決が三浦候補の有効投票としたもののうち、被告補助参加人が無効票と主張するもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.19)

この投票には明らかに「村長」と読みとれる記載がある。三浦候補は本件選挙の当時まで約四年間八竜村村長の職にあり現職のまま立候補したのであるから、右記載は三浦候補に投票する意思をもつて同候補の職業を記載したものとみるべく同候補に投票する意思は明示されておるので、同候補の氏名を記載したものと同様に取扱うべきである。よつて、右投票は三浦候補の有効投票とするのが当然である。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.27)

この投票の記載は第一字は明らかに「三」であり、第二字はまず左に「シ」を書きその右にどう書いたのか判明しないから字型が明確を欠くけれども、本件選挙の候補者で氏名の冒頭に「三」のつくのは、三浦候補だけであり、漢字の「浦」は日常頻繁に使用されるものでもないから、漢字を書くことに習熟しない人には誤記され易いことを考え合せると、この記載は「三浦」と書く意思で「三」は正確に書いたが「浦」は「シ」だけを書きその余は字型がくずれたものと推認することができる。

よつてこの投票は「三浦」と書いたものとみとめ、三浦候補の有効投票とすべきである。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.28)

この投票の記載は第一字は明らかに「三」であり、第二字の左側は「シ」であること明確であるし、その右側もその形状から推して「甫」の略筆したものと認められる。すなわち、「三浦」と書いたのであるから三浦候補の氏を記載したものと認むべきである。而して第三字は極めて不鮮明であり、達筆であるため、いかなる文字を書いたものか判明しないようであるが、くわしく検討するとこれは「様」を極端にまでくずし「<手書き文字省略>」と記載したものであることを確認できるので、三浦候補の氏に敬称の様を付したものとみるべきである。他事記載ではない。右投票は三浦候補の有効投票である。

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.29)

この投票にはまず「三ミウラ」と記載し、その第二字「ミ」と第三字「ウ」との中間左の方に「<手書き文字省略>」のような記載がある。この記載は全体がたどたどしい字で書いてあるから教育程度が低く漢字になれない者が「三浦」と書こうとして「三」と「浦」の「シ」に相当する「<手書き文字省略>」と「ミ」だけは書いたが、その旁がうまく書けないので、これをやめ抹消する意味で「<手書き文字省略>」(女扁ではない)と書いたものであることが推測しうるので(すなわち「浦」の字が書けないので書きかけた「<手書き文字省略>」を抹消し仮名で「ウラ」と書いたものとみる)、この投票の記載は「三ウラ」と読むべきである。よつて右投票は三浦候補の有効投票たるべきものである。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.53)

この投票の記載は極めて達筆であるため、普通人には読みにくいと認められる文字もあるが、第一字は「三」、第三字は「政」であることは疑う余地はない。他にこれに類する氏名を有するものはないから、これだけでも本件候補者中の「三浦政信」の氏名を書いたものであることはわかる。のみならずよくみると、第二字が「浦」を第四字が「信」を略筆したものであることがわかるので、被告がこれを三浦候補の有効投票としたのは当然である。

(6) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.54)

この投票の記載中「三浦さん」の上方に存する数字のような記載は一応他事記載のようにみえるが、これはこの投票に「三浦さん」と記載した投票者の書いたものではない。その双方の記載はいずれも鉛筆ではあるが、二つの記載の色合は違つている。「三浦さん」の方は上方の記載よりもはるかに濃い。この点からみて、上方の記載は投票者自身の書いたものではないとみなければならない。思うに、いわゆる他事記載がその投票を無効ならしめるとなすのは、投票者が候補者の氏名以外の事項を記入し候補者等に自己の投票を識別せしめんとする悪謀を阻止せんとするにあるものである。投票者の記載したものでないことが明白ならば、候補者の氏名以外の記載があつてもその投票を無効となすべきではない。この投票を被告が三浦候補の有効投票となしたのは当然である。

二、被告補助参加人が無効投票中児玉候補の有効票と主張するものについて

(イ)  原裁決において特に無効投票と判断したのに対し被告補助参加人が児玉候補の有効投票と主張するもの。

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.25)

この投票の記載は第一字は「コ」、第二字は「ミ」と認める。すると、第一字の音は児玉候補の氏の第一字に相当し、第二字は三浦候補の氏の第一字であるから、右記載は両候補の氏から一字ずつを採つたものであり、この投票は候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効とすべきである。児玉英三候補の第一字に相当する「コ」と末字の「三」を採つたものとし、同候補の氏名を書いたものとなすのは牽強附会である。児玉候補の有効投票となすべきではない。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載された投票(No.26)

この投票の記載は第一字が「コ」であることは認められるが第二字は全く判読不能である。この記載をもつて児玉候補の氏の第一字「児」に相当する仮名「コ」と、名の第一字「英」を誤つて「永」と記載したもの、すなわち「コ永」であるとはいえないので、児玉候補の有効投票とすることはできない。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.16)

この投票には「コ」と書いたものと認められる記載がある。本件選挙の候補者のなかには、「コ」の字を有する氏名の者はないが、児玉候補の氏は仮名で書くと「コダマ」となるので、或は投票者が同候補の氏を表すため「コ」を書きその下に書くべき「ダマ」又は「玉」を忘れたものとも想像されないことはないが、同候補の氏の第一字は「コ」ではなく「児」であり、「コ」の一字だけでは投票者の同候補を選ぶ趣旨が表明されているとも認め難いので、この投票の右記載をもつて同候補の氏を書いたものとなすのは無理である。本投票は候補者の何人を記載したか確認し難いので無効となすべきである。児玉候補の有効投票となすことはできない。(最高裁判所第二小法廷昭和二四、一二、二四判決参照)

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.17)

この投票には用紙を逆にして「コ」と書いたものと推認される記載がある。

本件選挙の候補者のなかには、「コ」の字を有するものはなく児玉候補の氏を仮名で書くと「コダマ」となるので、或は投票者が同候補の氏を仮名で表さんとし「コ」を書き、その下に「ダマ」「タマ」「玉」と書くのを忘れたものとも想像されないことはないが、同候補の氏の第一字は「コ」ではなく、「児」であるから、この投票の右記載をもつて同候補の氏を書いたものとなすのは無理である。右投票は候補者の何人を記載したか確認し難いので無効となすべきである。児玉候補の有効投票となすことはできない。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.18)

この投票には橙色の色鉛筆で「コ」に似た字型が書いてある。本件選挙の候補者のなかには「コ」の字を有するものはなく児玉候補の氏を仮名で書くと「コダマ」となるので、或は投票者が同候補の氏を仮名で表さんとし、まず「コ」を書きその下に「ダマ」「タマ」または「玉」を書くのを忘れたものとも想像されないことはないが、同候補の第一字は「コ」ではなく児であるからこの投票の右記載をもつて同候補の氏を書いたものとなすのは無理であり、該記載が特に色鉛筆を使用してなされた点から考えると、何か特別に同候補に投票したことを他人に覚知せしめんとする意図があつたのではないかとの疑もあり、またその字型が不自然でいかにも自由な運筆によるものではないところからみて型紙を使用して記載されたものと推認されるので、いずれの点からみても該投票は無効となすべきである。児玉候補の有効投票となすことはできない。

(ロ)  被告補助参加人が新らたに児玉候補の有効投票と主張するもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.49)

この投票の記載は第一字第二字が辛じて「ヨコ」と判読し得るのみで、第三字は「ロ」に濁点を付したもののようであり第四字は全く文字の体をなしていない。右の記載によつては候補者の何人を書いたものか、全然認定できないので無効投票たることは勿論である。

被告の答弁並びに主張

(申立)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。

(答弁並びに主張)

一、被告の答弁

原告等主張の右各投票の効力について被告の答弁及び主張は左のとおりであつて原裁決は正当である。

第一、原裁決が児玉候補の有効投票となしたもののうち原告において無効を主張するもの

(イ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示したもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.1)

被告は右投票を児玉候補の有効投票と認めたことは争わない投票の有効、無効を判断するには公職選挙法第六七条後段の規定により同法第六八条の規定に反しない限りにおいてその投票した選挙人の意思が明白であれば、その投票を有効とするようにしなければならない、とありこの規定は選挙人の意思が投票の記載から判断出来る以上できるだけ有効とすべきで誤字、脱字、あて字及び記載の不完全、拙劣、不明確な投票であつても特定の候補者を選挙する意思で記載されたものと判読し得る投票は候補者の一人に帰属させなければならないと云う趣旨と思われる。本投票は一見して常に殆ど文字に親しむことのない無学な選挙人の投票であることは明らかであるが、左方に小さく○と書いたものは他事記載とは認められない。平素鉛筆等を手にしたことのない老人が投票時の緊張感から震える手で先ず○と書いたが位置形状等から満足せず改めて場所を変えて<手書き文字省略>と三字を記載したものと見られる。(第二字目はグと見られるし、第三字目は完全ではないがマと見るべきである。従つてコグマと読まれるが、本件候補者中にはコグマと読まれる候補者はいないからグはダの誤字であり児玉候補に対する投票であることは明らかである。尚本投票の文字の記載は幼稚であるが真面目である。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.2)

原告はこの投票の記載はコダマと判読することが困難だと主張するが幼稚な筆蹟から見て真面目な投票であることは認められるし真面目な投票であるとすれば候補者二名の内児玉候補に投票しようとしたものであることは容易に推測出来る。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.3)

原告はこの投票はいたずら書きの如きものであり判読し得ないというがいたずら書きする程の者は多少文字に習熟した者でありこの投票の筆蹟から見て平素鉛筆等を手にする事のない人の書いたもので真面目な投票であることは明らかである。(欄外に書かれている点に注意)従つて右(2)の投票同様児玉候補に投票しようとしたものである。

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.4)

原告はこの投票は判読不能であるというが第一字は明らかにコであり第二字はタを書こうとして之を横に書き中の「<手書き文字省略>」を落したものであり、「<手書き文字省略>」はマと書こうとしたものでこの三字を並べればコダマと書こうとしたものである事は明瞭である。筆蹟から見ていたずら書きでない事は明らかである以上真面目な投票と見なければならない。而して真面目な投票である限り候補者二人の中の一人に投票したものであり児玉候補に対する投票と見るべきである。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.5)

原告はこの投票を「コダマ」または「コタマ」と判断し得ないし紙型を使用した疑もあるから何れにせよ無効だと主張されるが前記(2)(3)(4)の投票と同様コの外の二字は一字一字を切り離して見た場合にはタ或はマと見るのが困難であると思われるが三字を並べて見た場合コダマと書こうとした事は容易に知り得ると思われる。

公職選挙法第六十七条後段で「六十八条の規定に反しない限りにおいてその投票した選挙人の意思が明白であればその投票を有効とする様にしなければならない」と規定した法の精神からこの投票がその筆蹟の幼稚さからみて真面目な投票と見られる以上二人の候補の内児玉候補に投票したものである事は明らかである。なお原告は本件投票は型紙を使用した疑もあると言われるが書かれている位置や文字の並べ方等から見て型紙を使用したものとは思われない。

(6) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.6)

原告はこの投票は「<手書き文字省略>」と書いてあるので無効だと主張されるがこの様な間違いは稀有の事ではなく往々にしてあり得る間違いである。無効を意識しての悪戯とすればもつと書きようがあつた筈である。亦第二字第三字の中間に「、」らしいものがあるが故意に書いたものとは認められない。

(7) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.7)

原告は被告の裁決に児玉の児を書こうとして中止したものであると認定したのを批難し中止したとすれば下端の横線が不可解だと主張されるが児を崩して書けば「<手書き文字省略>」となり横線のあることは当然である。児と完全に書いて之を消さずにコダマと書いたとすれば故意の他事記載と見られても已むを得ないかも知れないが児と書こうとして中止した場合は完全の文字になつていないから「<手書き文字省略>」と書こうとしたが自信が無くなつて中止して仮名で書いたと見るのが事実の真相に合致した見方と思われる。

(ロ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示さなかつたもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.30)

原告はこの投票を何人に投票したか確認し難いと主張するが幼稚な筆蹟から見て真面目な投票と思われるし真面目な投票である限り候補者二人の内の一人に投票したものと見なければならない。三浦候補の投票と見るべき根拠はないから児玉候補に投票したものと見るのが当然である。原告は亦之を型紙を使用した疑があると主張するが型紙を作るには常識的に考えて投票用紙の候補者氏名欄に氏名が書かれる様に型紙の大きさと文字の配置がなされると思われるがこの投票は投票用紙の上部に書かれてあり而かも投票用紙の裏面に書かれてある許りでなくコの横の線が第一劃も第三劃も共にへの字になり直線でない点、濁点が細く接近している点、文字の間隔がない点などから型紙使用と認むべき根拠はない。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.31)

原告はこの投票は第三字を除いて不明確だと主張するが第一字は不鮮明であるがコと書こうとして下の横線を遺脱したものであり、第二字の「<手書き文字省略>」は多少不鮮明ではあるがダであることは間違いない。従つて之を全体として見た場合投票者がコダマと書こうとしたものであることは容易に看取出来る。原告はこの投票の文字が鮮明を欠く部分があるから之も型紙を使用した疑があると主張するが鮮明を欠くのは鉛筆が完全に削られていないためと思われる。特にダの濁点が小さい点になつている事は型紙の場合考えられない事である。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.32)

原告はこの投票も型紙を用いた無効なものであると主張しその理由としてコは定規を使用したように正確に書いてあるしその他の二字も同様だと強調しているがコは確かに四角型の一片を欠いた絵の様な書き方をしているが「<手書き文字省略>」はコに比較すると不正確な筆蹟である許りでなく型紙を用いたとすればその型紙を作つた者は文字に習熟したものと見なければならないがダの濁点を横に並列「<手書き文字省略>」させないで上下「<手書き文字省略>」に並べる事は普通考えられない。

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.33)

原告はこの投票を児玉候補の投票と認められないと主張するが筆蹟から見て真面目な投票である事は明らかであるから第二字の「<手書き文字省略>」はタの誤字と見るのが当然である。亦之も型紙を使用した疑があると主張し、その理由としてタを「<手書き文字省略>」と書く様な人がこの投票の様に形の整つた文字を書くことは考えられないと言うが文字は幼稚である許りでなく型紙を用いたとすれば第二字のタの第二、三劃が「<手書き文字省略>」の様に切り抜かれる筈もなく第一字のコも不正確な「<手書き文字省略>」となる筈はない。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.34)

原告はこの投票も型紙を使用したものであると主張しその理由として第一字が正確に書かれてある事と縦線下の横横が二回三回と同一個所を描いた跡が明認出来るとしているが型紙使用の場合同じ線を二度三度と描く事は考えられるけれどもこのような形跡は検証の結果からは認める事は出来ない。亦タの第二劃目の中央部が切れている点を型紙使用の根拠としている様だが、文字を書く事の少い人が一劃を一気に書く事が出来ず途中で一寸筆を休めてから書き続ける事はあり得る事であり之を以つて直ちに型紙使用と見る事は早計である。

(6) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.35)

原告はこの投票も型紙を使用したと主張しその理由として字体が劃然として不自然でありコの第二劃(下の横線)タの第一劃マの第二劃を見れば同一個所を数回描いた跡が歴然としているとしてあるが型紙を用いたとすれば投票者は文字に習熟しない人である。然るにこの投票に現われた文字を見ると運筆が渋滞せずに割合スラスラと書かれてある。型紙を用いる必要のない人の投票と見られる原告が指摘する様な同一の個所を数回書いたと見る事の出来る形跡は写真では発見する事が出来ない。仮に同一の線に二回以上鉛筆を用いたとしても必ずしも型紙を用いたと即断する事は出来ない。不鮮明な個所に加筆する事もあるからである。

(7) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.36)

原告はこの投票も児玉候補の有効投票となし得ないとしているが之は反駁するまでもなく児玉候補に投票したものと認むべきである。亦之も型紙を用いたと主張しその理由として文字が諸所に於て線が切れていたり不自然に動揺したりしているとなし亦ダの一劃が数回描かれていると主張しておられるが型紙を用いたとすればコの第二劃が延びてユの様に型紙を切り込む筈はないしダの濁点ももつと正確に「<手書き文字省略>」と書かるべきであるのに斜に点を二つ「<手書き文字省略>」並べているところから見ても型紙を使用したものでない事は明らかであるダの第一劃に加筆した様な跡があるが型紙を用い先に書いた線が見えないため重ねて同じ線を描く場合は同じ線全部を書き途中で中止する筈はない。蓋し前に描いた線が見えないために書くのだからその線を全部書くのが当然だからである。

(8) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.37)

原告はこの投票はコタの二字だけだから児玉候補の有効投票とは認められない。亦「<手書き文字省略>」の記載は他事記載で無効である更に型紙を使用したものであると主張しているがこの投票は児玉候補に投票しようとしてコタと書いたがマが思い出せずにマを書かないままで投票したと見るべきである。下に二つの「<手書き文字省略>」があるのはマを思い出すべく考えつつ鉛筆を弄んでいる中に無意識に書かれた点であつて之を候補者若しくは運動員等に自分の投票である事を示すための意識的他事記載と見るのは常識では考えられない。亦型紙を用いたとすれば書いた後型紙を外したたんで投函するから余程狼狽していない限りマを書かない筈はないし運筆振りから見て狼狽していたとも思われない。

相当教育のあるものでも時に依り簡単な文字がどうしても思い出せない事があるからこの投票も投票者が投票に当つてマの字を思い出せなかつたものと思われる。

(9) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.38)

原告はこの投票は型紙を用いた無効投票であると主張しその理由としてコの右肩マの右肩が途切れているからと主張するが之は筆者の筆癖であつて型紙に文字を切り抜くにコの右肩マの右肩を切り抜けば型紙の作用を営まないような結果になるのであれば格別コマの全劃を切り抜いても切り抜いた文字が消える事はないから右の様な途切れた箇所があつた事を以つて型紙使用の根拠とはならない。筆者の筆癖と見るべきであり運筆が比較的上手である点から見て型紙使用の必要のない投票者と見られる。

(10) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.39)

原告はこの投票を「コダマ」と判読困難であり且つ型紙を使用した無効投票と主張するが児玉候補の投票と判読出来る事は明らかであり型紙を使つたものでない事も一見明瞭であるから原告の主張は理由がない。

(11) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.40)

原告は之を無効と主張するが児玉英三候補の有効投票である事は贅言を要しない。

(12) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.41)

(13) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.42)

この投票二票は真面目な投票かそれとも無効を意識しての悪戯投票か若干の疑問はあるが悪戯投票と見るべき事由も発見出来ないから真面目な投票と見なければならない。真面目な投票であるとすれば候補者二名の中誰に投票し様としたものか自ら明らかであり児玉候補に対する投票と見る事は当然であるがその際児玉の頭字コを書こうとして小と書き、誤りに感付いて児と書き直したと見るべきか、それとも玉を書く積りで児と書き小児を小玉と書いた積りでいたのか聊か疑問はあるが前者であるとすれば小を消して児の下に玉か若しくはダマを書くのが当然である。蓋し下手な字ではあるが筆蹟から見て少くとも仮名でダマと書けないような人物ではないと思われるからである。従つて児玉の頭字を小と信じていた投票者が児玉の姓の中に児の字があつた事の記憶を喚び起し之を玉と感違いして書いたと見るのが事実と思われる。換言すれば児玉を小児と書き誤つたものと見るのが正しい。

仮に百歩を譲つて児玉の頭字を誤つて小と書き之に気付いて児と訂正したが誤つた小を消すのを忘れたと見ても故意の他事記載とは認められないから有効と見るべきである。蓋し児玉と姓を完全に書いた外に小を存置せしめたとすれば他事記載と見られても已むを得ないかも知れないが本投票の場合は誤字の小を訂正する為めその下に児と書いた事が明瞭であるから意識的に他事記入したとは見られない。(この投票二票は被告選管ばかりでなく八竜村選管でも有効と認めているがその理由は右説明の通りと思われる。)

(14) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.43)

原告はこの投票のコの上にある<手書き文字省略>を他事記載として無効であると主張されるがこれは往々にして見ることのある人の習癖で鉛筆書の始めに鉛筆を試すようにして点や線を書いて見たものでこれを故意に出た他事記載と見るのは誤りである。

(15) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.44)

原告は児玉の姓の下にある……を故意の他事記載と主張するがこれは児玉候補の姓を書き名前を書こうとしたが記憶の喚起が出来ないために名を省略する埋合せの意味で書いたかそれともその人の習癖で姓を書いたがその下に空白があるため無意識に鉛筆を弄んで書いたものか不明であるがこれを法が公明選挙に反する行為として禁じている故意の他事記載と見るのは事実に反し投票者の意思にもどるものである。

(16) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.45)

原告はこの投票を判読不能と主張するが文字は頗る幼稚でたどたどしく書かれているがそれだけに真面目な投票であることが看取される。真面目な投票である限り候補者二人の内いずれか一人に投票したものと見なければならない。

第一字は完全なコではないがコと書こうとしたものであることは解るし第二字は下手ながらタであり第三字は不完全ながらマと読むことが出来る。而かもこの三字を並べて読めばコダマと読むことに無理はなくコダマ以外の何人の投票でもないことが明瞭である。

(17) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.46)

原告はこの投票を候補者の何人を記載したか確認し難いと主張する。平素文字に親しまないしかも烈しい肉体労働に長く従事してきた老人の筆蹟と思われ頗る下手な文字であるが第一、二字はコダと読まれるし第三字はエの様に書かれてあるがマを書こうとした意図が充分に看取出来る。従つて児玉候補の有効投票としたのは当然である。

(18) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.47)

原告はこの投票は真面目な投票かどうか疑問であるしまた他事記載の点からも無効であると主張するがこの投票は一見して小心で神経質な人が極端に緊張した精神状態のもとに書いたものであることを推測し得る。従つて緊張の余りダを書き忘れたか若しくはダの字を忘れたかいずれかである。書かれた文字が一見して神経質に見ゆる位真面目な投票で悪戯な投票とは思われない。真面目な投票である限り候補者二人の内の一人に投票しようとしたものであることは明らかである。コマの発音は三浦候補の姓名でなく児玉候補の姓の三発音の中の二発音で児玉候補に投票したことは間違いない。マの右側にある「<手書き文字省略>」は故意の他事記載でなく何かを書こうとして中止したものと見られる。

第二、原裁決が三浦候補の無効投票となしたもののうち原告において有効を主張するものについて

(イ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示したもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.8)

原告はこの投票を三と書いたものであると言うがミと書いたものであることは間違いない。被告がこれを無効としたのは原告が前記「コ」(No.16)の投票に関して援用している最高裁等の判決に基いたものであるが被告の補助参加人は之が有効を主張しており被告訴訟代理人も同意見である。蓋し右最高裁の判決は候補者の姓の頭字が二音以上である場合一音に相当する仮名だけでは漢字の頭字一字を書いたと同様に見ることができないとの趣旨であつて本件候補者の様にいずれも頭字が一音である場合漢字の三或は児は有効で仮名のミ或はコは無効であると区別すべき理由はないからこの投票はミとして有効であると言わねばならない。

(ロ) 原裁決が特にその投票の効力につき判断を示さなかつたもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.9)

被告がこの投票を無効とした村選管の判断を支持したのはこの投票は相当達筆であり三浦候補の氏名を知らない人の投票とは認められない。従つて無効を意識しての投票と認めたものである。三浦候補は本件選挙の四年前に郵便局長を長男に譲つて罷め村長になつたものであり仮に郵便局長時代にユウビン局という通称で呼ばれたことが(田舎でユウビン局と言うのはユウビン局の事務所にしている家を指称し郵便局長を単に局長と呼ぶことが多い)あり村長になつてもその通称が使用されていたとしても村長になつて満四年を経過した今日村民で村長の姓を知らない人がおるとは思われない。しかも八竜村には鵜川と浜口の二個所に郵便局がありいずれの郵便局を指すのか疑問を懐かせる事情もあり且つ相当達筆の投票者がこのような投票を真面目にするとは常識的に考えられない。従つて投票者の意図は無効を意識しての投票であり或は三浦候補に対し村長になるより郵便局に専念せよとの皮肉の意に出たとも考えられるいずれにせよ真面目な投票とは認められない。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.10)

被告がこの投票を無効と認定した村選管の判断を支持したのは相当達筆でありながら三以外の記載は文字と認めることのできない程度のものであり悪戯投票と見たためである。原告が主張するように三宇らさんと読むことは困難である。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.48)

原告はこの投票を三浦候補の有効投票と主張するがこの投票は相当達筆であり四年間村長を勤めていた三浦候補の名を知らない人の投票とは認められない。従つて無効を意識しての投票と認められる。

二、被告補助参加人の答弁

第一、原裁決が三浦候補の無効投票となしたもののうち原告が有効票と主張するものについて

(イ) 原裁決が特にその投票の効力について判断を示したもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.8)

「ミ」や「コ」とのみ記載した投票が無効であるならば「三」と記載した票は同様無効と認むべきである。反対に若し「三」が三浦候補に対する有効投票と解するなら「コ」又は「ミ」と記載された投票はそれぞれ児玉候補又は三浦候補の有効票と認むべきである。

第二、原裁決が児玉候補の有効投票となしたもののうち原告が無効票と主張するものについて、

(イ) 原裁決が特にその投票の効力について判断を示したもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.1)

本票の記載は頗る幼稚で教育程度の低い者が第一字「コ」を書いたのであるが位置形状等から満足できず更にコダマと記載し直したのであるが第一字のコの字の抹消を忘れ更に「ダ」や「マ」の字の正確な記載を失念して本票の如き体裁となつたもので児玉候補の有効票である。

第三、原告等の追加主張(前記六の第三の(イ)(ロ))の事実について、右(イ)の(1)、(2)の投票の記載は常識上からも三浦候補の氏名に関する記載とは判読できない。

同(ロ)の(1)の投票の記載については、原告等が他の記載と主張する個所は、まず投票に候補者の氏名を記載しようと書始めたが失敗した部分であつて、その後で失敗した字の横に正しく「コダマ」と記載したものであることが推認できる。従て該記載は他事記載とは見るべきではない。

三、被告補助参加人の主張

第一、原裁決が三浦候補の有効投票としたもののうち被告補助参加人が無効投票と主張するものは左のとおりである。

(イ) 原裁決において特に三浦候補の有効投票と判断したもののうち無効投票と主張するもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.20)

右投票の第一字の「ウ」は書違いと認められないので他事記入と見るべきである。若し誤つて「ウ」を書いたとすれば抹消するのが常識である。右は有効投票とは認めえない。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.21)

右投票が三浦候補の姓を書いたものとせば第一字が「三」又は「ミ」と記載されなければならない。片仮名の「サ」を記載したのは真面目に投票したものとは認められない。即ち何人といえども三浦をサウラ又はサンウラと発音したり書いたりする人はいないからこれは無効を意識して書いた悪戯の投票と見るべきである。尚原告等の主張するような三伝をサデンと呼ぶ例はない。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.22)

本投票は相当上手に書かれており、三浦の三を誤つて落したものとは認められない。これは児玉にも三浦にも投票したくない選挙人が無効を意識して投票したものと認むべきである。

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.24)

本投票は全体として判読しがたい無効投票である。第二字が「う」と読みうるからと云つて三浦候補の得票と解するのは牽強附会の誹を免れない。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.23)

本投票の記載自体から見るときは比較的上手に文字が書かれており「浦」と書くべきところを「清」と誤記したものとは認めがたい。むしろ無効を意識した投票と見るべきである。

(ロ) 原裁決が三浦候補の有効投票としたもののうち無効投票と主張するもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.19)

本投票は候補者の氏名記載とは認められないので無効である。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.27)

右投票の第二字は到底浦とは読みえない。

(3) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.28)

第二字以下は判読しえない。第二字は浦の略字とは認めえないし更に第三字が様を極端にくずしたと主張するのも当をえない。

(4) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.29)

第一字及び「<手書き文字省略>」なる記載は明らかに他事記載と認むべきである。

(5) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.53)

右投票の第二字以下は到底判読しえないものであり無効投票と認むべきである。

(6) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.54)

上部の数字は明らかに他事記載であり無効投票と認むべきである。

第二、原裁決が無効投票としたもののうち被告補助参加人が児玉候補の有効投票と主張するものは左のとおりである。

(イ) 原裁決において特に無効投票と判断したもののうち児玉候補の有効投票と主張するもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.25)

本投票に現われた文字は頗る幼稚な点から見て、本票は老人の書いたものである。即ち児玉候補の幼名が強く記憶に残つているところから「ヱ三」即ち「エイ三」と書こうとして「イ」を脱落し、また「エ三」と書くべきを「エ」の下の字劃が途中で切れて了つたものと認めうる。

(2) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.26)

コは児玉候補の姓の発音第一字であり第二字目はその筆意は「永」を書かんとしていることが認められる。全体として「コ永」即ち児玉候補の略称であることは明白である。因みに山本郡地方では人を呼ぶのに姓と名の各文字を略称することを常としている。

(ロ) 原裁決において無効投票としたもののうち児玉候補の有効投票と主張するもの

(1) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.49)

本票は無学文盲に近い選挙人がおぼろ気な記憶を辿つて片仮名によつてまずコを書かんとしてヨと誤記し、第二字のコを辛くも書き第三字ダについては「<手書き文字省略>」を忘れ第四字マを書かんとして格好がとれずこれを改竄して漸く書き上げたものの如くその筆意は児玉候補の姓を書かんとしたものであることが窺知しうるので同候補の有効票と認むべきである。

(証拠関係)<省略>

理由

原告両名が昭和三四年四月三〇日施行の秋田県山本郡八龍村々長選挙の選挙人であること、右選挙は即日開票の結果選挙会では投票総数五、三三九票、その内有効投票五、三一〇票、無効投票二九票と算定され児玉候補の得票は二、六五八票、三浦候補の得票二、六五二票となり児玉候補が当選者として告示されたこと、その後原告等は右当選の効力に不服があり村選管に異議の申立をしたところ、同村選管においては同年六月二八日附の決定書を以て児玉候補の当選を無効としてその旨の決定書を交付したこと、児玉英三は右決定に不服があり被告委員会に対し訴願を提起したところ、同委員会は同年一一月三〇日附書面を以てさきに村選管のなした決定を取消す旨の裁決をなし該裁決は同日告示されたこと、右裁決書によれば投票総数は五、三三九票、内有効投票五、二九七票、無効票投票四二票、三浦候補の得票は二、六四六票、児玉候補のそれは二、六五一票なることは何れも当事者間に争がない。

よつて次に原告等主張の事実につき逐次判断をする。

第一、原裁決が三浦候補の有効得票と認めなかつたもので、原告等が同候補の有効得票と主張するものについて判断する。

(イ)  「<手書き文字省略>」と記載してある投票(No.8)について

本件村長選挙に立候補した者は児玉英三と三浦政信の両名のみであるからと云つても単にミと記載したにとどまる投票はこれによつて三浦政信に対して投票せんとする意思が明確に表示されたものとは認めがたいので無効である。原告は該記載は漢字の三と認むべきであると云うが、記載自体より片仮名のミと判読するのが相当である。

(ロ)(1)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.9)について

郵便局又は局と云う呼称は通常建造物である局舎又は郵便施設に対するものと認められる。郵便営造物の長に対しては通常郵便局長又は局長と呼んでおりこれを郵便局とか局とか呼称することが通例とは認められない。右認定に反する証人関養助の証言は当裁判所の措信しえないところであるから本票が三浦候補の有効票であるとの原告の主張は採用できない。(原告は地名が候補者の通称と認められる場合を引用して本投票が有効であることを主張するけれども、本件の如き事例と地名の場合と同視することは相当でない。)尚右関証人の証言のみで三浦候補の居住する部落において郵便局長を郵便局又は局と呼称する慣習があるものとも認めがたいことは云うまでもない。

(2)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.10)について

右記載は三の字を除いては判読しがたい記載であり全体としても結局判読しがたい記載と認める外はない。これを三宇らさんの記載と認むべきであるとの主張は採用しがたい。

(3)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.48)について

右記載は明らかに三浦政信とは別異な氏名であり両者間に類似の点も認めらないれから無効投票というべきである。而して八龍村には三浦勇郎なる人物は実在せず、また三浦候補の弟に三浦勇なる者が生存していた事実があるからと云つて右判断を覆すに足りない。

第二、原裁決が三浦候補の有効投票となしたものに対し被告補助参加人が無効と主張する投票の効力について判断をする。

(1)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.19)について

甲第三号証及び当審証人関養助の証言等によれば三浦は昭和三〇年五月一日村長に就任し任期満了により解任されるまで村長の職にあり現職の侭立候補した者であつたのでその為同人を村長と呼称するのは当然であり、村長とのみ記載した投票は三浦候補に対する有効な投票たるを失わない。

(2)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.20)について

第一文字ウは不要且つ過剰な記載ではあるが筆者の運筆の稚拙な点から考えミウラと記載せんと欲してかかる文字を書いたものと認められ全体として三浦候補に対し投票しようとする意思を窺うに足りる。(即ち最初の「ウ」の字は抹消を失念したものでありこれを他事記載と見るのは当らない。「<手書き文字省略>」は「ウ」の書き損じと認定しうる。)

(3)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.21)について

本投票の文字は稚拙である。当初のサは三浦の当初の字の発音がサンであること、音と文字と混同して三ウラと書いたつもりでいるとも考えられるのみならず、三文字の内二文字は明らかにウラと判読しうるし文字全体としてミウラに類似した記載であることから考えこれを三浦候補に対する有効投票と認めるのが相当である。

(4)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.22)について

本票の運筆から見て通常文字に親しまない者が投票のため鉛筆をとり三の字を書くべきところを失念して脱落したものと認めうる。而して浦の一字のみでも三浦候補に投票せんとする意図はこれを窺知しうるので本票は同候補に対する有効投票と解する。

(5)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.23)について

本票の運筆の稚拙な点から清の字は浦の誤字なることを優に窺いうるので本票は三浦候補の有効得票たるを失わない。

(6)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.24)について

第一字の「<手書き文字省略>」はみの不正確な記載と認められる。従て本票はみウと判読すべくその運筆の拙劣な点より見てもみウラと書かんと努力して果さず辛じてみウまで書き得たに止まるものと認められる。その筆意はミウラを記載せんとすることは明らかであるから本票は三浦候補に対する有効投票と認めるのが相当である。尚最後の「<手書き文字省略>」は他事記載と認めえないことはいうまでもない。

(7)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.27)について

本票の第一字は三で第二字の偏はシであることは認めうる。而して文字の甚しく幼稚且つ拙劣な点等を考え合せると文字に習熟しない筆者が三浦と書かんとして「<手書き文字省略>」まで認めたものゝ旁りの書方が判らず、おぼろ気な記憶をたどり「甫」に似せて書いた文字が本件の旁りであると認められる。さればこの程度の記載にても三浦候補に対する有効投票と認むべきものと考える。

(8)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.28)について

第一字は問題がないが筆勢のたどたどしさ文字の稚拙な点から見て第二字は浦の誤記と認めるのが相当である。而して第三字は様の書き誤りと認むべき余地十分なので他事記載と見るべきではない。結局投票者の真意は三浦様と認める意図に出たことは十分窺い得るので本投票は三浦候補の有効得票と認むべきである。

(9)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.29)について

本件第二字乃至第四字を通読すれば明らかにミウラと読みうる。第一字の三、第二字と第三字間の「<手書き文字省略>」の文字が余分な記載であるがこれ等不要な二字は三浦と漢字で記載せんとしたものの三を認め次浦の偏「<手書き文字省略>」を認める時より漢字による記載に自信を失つて中途よりその意図を放てきし、改めてミウラと片仮名を以て記載したものと推認できるので本票は他事記載と認むべきでなく三浦候補に対する有効投票と認むべきである。

(10)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.53)について

第一字の三を除くと何れも判読しがたい文字であるが、第二字の偏はシの略であるし全体として浦と書こうとした意思が窺われる。第三字の「<手書き文字省略>」という文字は我流のくずし方ではあるが政の略字と推認しうる。第四字も信の字と多少の類似点のあることが認められる。而して本文字の稚拙な点から考えると三浦政信に対して票を投ぜんとした意図が窺いえない訳ではないのでこれは同候補の有効得票と認定しうる。

(11)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.54)について

三浦の姓の上の文字は明らかに候補者の氏名に無関係な記載である。而して該記載の内容は判断しがたいが一部は数字の如く見える、二段にわたり相当の長さに亘つて記載しているところから見て、書損じとか不用意な記入とは認めえないところであり他事記載と認むべきである。原告等は右文字様の記載は投票者が記載したものにあらざることが明白であるから他事記載とは認めえないと主張するけれども該主張の如き場合は極めて稀有のことである。(鉛筆の色の濃淡の度の差違があるといつたようなことのみで所論の如き事実をたやすく首肯しがたい。)なおかゝる不要記載をした意図は推側しえられないがその為に他事記載と認めえないというのも当らない。本投票は無効と云うべきである。

第三、原告等が児玉候補の有効投票と認められないと主張する投票についての判断。

(イ)  原裁決が特にその投票の効力につき判断したものについて

(1)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.1)について

最初の文字 は他事記載ではないものと認められる。即ち本件投票者の筆勢、運筆の稚拙な点から見て最初コと書いたのであるがその位置形状等から満足できず更に改めてコダマの第一字から書直したのであるが、最初の文字を削除するのを失念したものと推認できる。第三、第四の各文字も正確にはダマと記載されてはいないが非常に類似していることは事実であり、筆者の意思はダマと記載せんとするにあつたことは十分に認めうる。従て本投票は児玉候補に対する有効投票と認むべきである。

(2)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.2)について

本投票もその幼稚な筆蹟から見てコダマと記載せんとしたが明確に表現ができず本投票の如き結果に終つたものと認めるのが相当であり、筆者の意思はコダマと記載せんとするものであつたことが十分に窺知できる。されば本投票も児玉候補に対する有効投票と認むべきである。

(3)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.3)について

本投票も右(2)の項で述べたところと全く同様であり平素文字に親しまない者がコダマと書かんとしたものであることが窺知しうる。尚本投票は欄外に記載されているのでありその点から見ても筆者が無学文盲に近いことが窺われるのであり悪意の記載とは認めがたい。従て本投票は児玉候補に対する有効投票というべきである。

(4)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.4)について

本投票も亦投票者が平素文字に親しまない者であるために第二字はタを書こうとしてこれを横書きにしたものであり「<手書き文字省略>」はマを書こうとして果さなかつたものと認めるのが相当であり悪戯書とは認めえない。よつて本投票は児玉候補に対する有効投票である。

(5)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.5)について

本投票も亦(2)の項において述べたところと同一の理由により第二字はタと記載せんとしたものであること、第三字はマと記載せんとしたものであることが本投票自体より優に窺知し得る。これを判読しえない投票と解すべきではないし、また型紙を使用したものとも認めえないので児玉候補に対する有効投票と認める。

(6)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.6)について

本投票はコタマの誤記と認める。(第二、第三字間の「<手書き文字省略>」はタの濁点と認められる。)

(7)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.7)について

第一字は児玉の児の略字(正式の略字であるかは別問題として)を書こうとして中途にその意図を放棄し、改めて片仮名でコダマと記載したものと認めうる。されば第一字を他事記載と云うのは正当でない。本投票は児玉候補に対する有効投票と認める。

(ロ)  原裁決が特に投票の効力につき判断を示さなかつたものについて

(1)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.30)について

第二字はダの不正確な記載と見るべきであるし、また型紙使用の証拠も存しないので児玉候補の有効得票と認める。

(2)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.31)について

第一字はコと書こうとして下の横線を遺脱したものであり、第二字の「<手書き文字省略>」は多少不鮮明ではあるがダと認められる。更に型紙使用の事実は窺知しえないので児玉候補の有効得票と認める。

(3)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.32)について

第二字の「<手書き文字省略>」はタを書こうとして不正確な表現に終つたものと認むべきであり、本投票は全体としてコダマと読み得る。次に原告等は本件投票は型紙を使用したものと主張するが、その証拠は存しない。(型紙を使用したとすれば濁点の位置は不自然である。)されば本投票は児玉候補の有効得票と認める。

(4)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.33)について

第二字はタの誤記と認められるから本投票は児玉候補の有効投票である。原告等は本投票は型紙を使用したものであると主張するがこれを認むべき証左は存しない。

(5)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.34)について

原告等は型紙使用による投票と主張するのであるが、その主張の事実のみからはたやすく該事実を肯認しがたく他にこれを証すべき証左がないので本投票は児玉候補の有効投票と認むべきである。

(6)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.35)について

原告等は型紙使用による投票であると主張するけれども投票の記載のみからはたやすく右主張を肯認しえないし他に該事実を証すべき証左も存しないので右主張は採用できない。本投票は児玉候補に対する有効投票と認むべきである。

(7)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.36)について

第一字はコの誤記と見るべきであるから本投票はコタマと読みうるし児玉候補の有効投票と認むべきである。また型紙を使用した旨の主張も亦これを認むべき証左は存しないので該主張は採用できない。

(8)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.37)について

第三字はマとは読み得ないが他事記載とも認むべきでない。即ち文字に習熟しない者がマを書こうとしたが正確な書体が記憶にのぼらず已むなく同字に類すると思われる不正確な文字を書いたものと認められるからである。なお型紙使用の事実は認められないので本投票は児玉候補の有効投票と認める。

(9)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.38)について

原告等は本投票中第一、第三文字が不自然な書方をしていること、即ち二字とも右肩の個所が切れている点から型紙使用が明白であると主張するけれども、それだけの事実から本投票が型紙を使用したものとは即断しえない。されば本投票は児玉候補に対する有効投票である。

(10)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.39)について

第三字はマとは読み得ないが書体全体が真面目な筆致による点からもマの誤記と認めうる。されば本投票は児玉候補の有効票と認められる。なお型紙使用の事実はこれを認むべき証左はないので採用できない。

(11)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.40)について

本件選挙の立候補者は児玉英三と三浦政信の両名のみである。而して児玉円蔵の読み方エンゾウは児玉候補の名であるエイゾウに類似するからこれを児玉候補に対する有効投票と認むべきである。

(12)(13) 「<手書き文字省略>」と記載した投票二票(No.41、42)について

右二票ともその記載した筆蹟は真面目であり悪意を含んだ投票とは認めがたい。而して本件投票の文字数は何れも二字であり児玉も二字であること、記載された二字は何れも児玉候補の児又はそれと同音の文字であること、小又は児に関係のある姓名の候補者は児玉候補のみであることを考え合せると本件投票はいずれも同候補に対する有効投票と認められる。

(14)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.43)について

第一字の「<手書き文字省略>」は一旦書いた後位置、形状等より不満足に思い更に改めてコダマの第一字コから書き始めたものであると認められる。されば最初の「<手書き文字省略>」の字は他事記載と見るべきでなく抹消すべきものを抹消しない存置したに止まる。よつて本投票は児玉候補の有効投票と認むべきである。

(15)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.44)について

児玉の下に点線を記載した理由についてはこれを確認しえないが、然し本投票の記載全体からは真面目な投票であることが窺知されるのであつて意識的に他事を記載したものとは認めがたい。(即ち被告主張の如く名の代りに書いたものか、かゝることを文の終りに書く習癖のある者の所為とも考えられる)さればこれを他事記載のある投票と認むべきであるとの原告等の主張は採用できない。よつて本投票は児玉候補の有効投票と認める。

(16)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.45)について

本投票はその記載された文字がたどたどしいが文字は全体として真摯な態度で書かれておりコダマと書こうとした意思は十分に推認される。即ち第一字、第三字はコ、マと書こうとしたが常々文字に親しんでいないために出来かねたものと認むべく児玉候補に対する有効投票と認められることは勿論である。

(17)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.46)について

第二、第三の両文字は正確にはダ、マとは異るけれどもこの程度の記載があればそれがダ、マの誤記であることは明瞭に推認し得られる。よつて本投票は児玉候補の有効投票と認められる。

(18) 「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.47)について

本投票の記載全部から投票者は稚拙な運筆乍ら一生懸命コダマと書こうとしたものであることが窺知できる。即ちコダマの第二字の書方は忘失し結局第一字のコ、第三字のマを書き中間の文字は記載しなかつたものと推認しうる。マと同じ高さに、その右側にある「<手書き文字省略>」の如き記載をした意図は不明であるが殊更に他事を記載したものとは認め得べくもないので本投票も児玉候補に対する有効投票と認められる。

第四、原告等の追加主張についての判断

(イ)  原告等が三浦候補に対する有効投票と主張する投票の効力について

(1)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.50)について

右記載は一見判読しがたい観がある仔細に検討すると第一字はミと読みえないこともなく、第二字はウ、第三字はラと書かんとしている意思が窺い得る。されば本投票はミウラと記載せんと努力したのであるが通常文字に習熟していない関係で明確な記載をなし得なかつたものと認むべく三浦候補に対する有効投票と認むべきである。

(2)  「<手書き文字省略>」と記載した控票(No.51)について

第一字三は三浦の三であるが第二字は一見して浦の旁りの甫とも異る文字である。然し同時に甫と類似点がない記載でもないこと運筆の稚拙なこと等を考え合せると本件投票者は三浦候補に投票せんとする意思であつたと推認しえられる。最後の句読点も他事記載とは認めがたいので本投票は三浦候補の有効得票と認めうる。

(ロ)  原告等において原裁決が児玉候補の有効投票と認めた票中無効を主張するに票について

(1)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.52)について

本投票は候補者氏名記載欄内には「<手書き文字省略>」と記載し欄外にコダマと記載しているものでありその体裁から見て欄内の「<手書き文字省略>」はコと書こうとして中途でやめ改めて欄外にコダマと書いたものであると認められる。されば「<手書き文字省略>」は他事記載と認むべきでなく児玉候補に対する有効投票たるを失わない。

第五、原裁決が無効投票としたものゝ内被告補助参加人が児玉候補の有効票と主張するものについての判断

(1)  「<手書き文字省略>」とのみ記載した投票(No.16,17,18)について

片仮名でコダマと書く姓の内最初の一字だけしか記載されていない場合には、児玉候補に対して投票しようとする意思がこれによつて十分に表明されたものとは認めがたいので片仮名一字のみの投票は児玉候補に対する有効投票とは認められない。

姓の内漢字一字のみを記載した投票を有効と解すると彼此均衡を失するのではないかとの主張も一理ないわけではないが然し漢字の場合と仮名の場合とでは意思の表明の度合が同じとはいえない場合が多いので此の主張は採用できない。

(2)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.25)について

第一字はエとは判断しがたく、文字全体からはむしろコの誤記と解するのが相当である。さればこれをエ三換言すればエイ三と記載したものと同視すべく児玉候補の得票であるという主張は理由がない。

(3)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.26)について

右投票の第二字は到底判読しがたい文字であり右投票は結局何人に対する投票か判読しえない無効のものと認定する外はない。右認定に反する被告補助参加人等の主張は採用できない。

(4)  「<手書き文字省略>」と記載した投票(No.49)について

第一字はヨと似ている文字であるが、第二字は明らかにコであり第三字はダの誤記、第四字もマと記載せんとした筆意を窺知するに足りる。されば第二字以下はコダマと判読できる。而して第一字はコと書くべきを誤記し抹消すべきものを抹消せずに存置したものと認めえないわけではない。(文字の稚拙な点から見て第一字が意識的な他事記載とは到底認めえない。)されば本票は児玉候補に対する有効票と認むべきである。

(結論)

以上判示したところを綜合すると結局原裁決が無効と認めた投票の内三浦候補の得票と認むべきものは二票であり、また原裁決が三浦候補の得票と認めたものゝ内無効と認むべきものは一票ある結果同候補の得票は原裁決の決定より一票だけ増加する。ところで原裁決が児玉候補の得票と認めたものはすべて当裁判所も有効と認定するところであり、また原裁決の認定した無効票中に児玉候補の有効得票と認むべき票が一票あるので結局同候補の得票数は一票増加することになる。

原裁決の認定した両候補者の得票は前述の如く児玉候補は二、六五一票、三浦候補は二、六四六票であるから右説示のとおり三浦候補の得票が一票増加しても尚児玉候補の得票に及ばないことは明白である。

されば原裁決は結局正当でありこれが取消を求める原告等の請求は理由がない。

よつて原告等の請求を棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九四条後段を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本晃平 小友末知 石橋浩二)

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